« 自由主義経済の崩壊の始まり | トップページ | 危機対応組織 »

2008年8月26日 (火)

グルジアの地政学的意味

グルジア向けの人道支援物資を積んだ米第6艦隊所属のイージス駆逐艦マクフォールが24日、グルジア西部バトゥーミ港沖に到着したようだ。何事もなしでまずは、一安心と言うところだが。前稿でも書いたのだが、米海軍は伝統的に小艦艇を派遣して紛争海域をウロウロさせ、戦闘に持ち込むというお家芸がある。古くは日本軍に対する、南京での米砲艦パネイ号事件、さらには北ベトナム軍に対するトンキン湾での駆逐艦マドックスの、いわゆるトンキン湾事件。いずれも米国が仕組んだものと、今日では解明されている。またぞろその再現かと危惧したのだが、その手は喰わぬロシア海軍と言うところか。

たまたま期を一にして、イスラエル海軍が海上封鎖している地区へ、人道支援の目的で援助物資を積んだ米国のNPOの民間チャーター船が到着したニュースが発信されていた。パレスチナは米国が「国家として支援していないから」と言うことなのか。国家として支援するグルジアには、人道支援も軍艦でと言うことか。そもそも米国大統領のもとホワイトハウスで、イスラエルとパレスチナが和解した光景が目に浮かぶのだが。人道支援というなら、ガザのこうした非武装の民間船での物資運搬の方が、誰が考えても紛争は起こりにくいと思うのだが。ちなみにロシア国防省のノゴビツィン参謀本部次長の発言がロシアの新聞に載っていた。イージス艦マクフォールの完全戦闘配置のCNNの画像とともに、曰く「人道支援ということで、来たいと言うなら来ればよいがしかし米国の意図がわからん。」と極めてクール、というか余裕さえ感じる。

ロシアも大人になったと言うことか、これがお隣の中国や昔のソ連だと「人道支援に名を借りた、我が国に対するかかる米国の武力威圧的行為は断じて許すことは出来ない。」と言ったキンキン声が聞こえてきそうですが。

ロシアの親戚(妻の叔父)に、今度のグルジア紛争の背景をいくつか聞いてみた。妻の叔父はソーブルСОБР (Спеч Отряг Выстрого Реагирования) 内務省組織犯罪総局の緊急対応特別支隊に勤務しているのだが、数度のチェチェン従軍経験を持つ。チェチェンでは国防省正規軍だけでの治安維持は損害が大きく難しいために、中隊規模のソーブル部隊を全国から選抜して編成、内務省軍の他の特殊部隊と共に駐留させて正規軍と共同作戦をしていた。

今回1個師団規模の部隊を派遣したわけだが、最初の疑問はチェチェン情勢がどうなっているのかであった。ロシアの徴兵制度を揺るがすほどの損害を長年にわたり出し続けた、チェチェンの情勢の安定無しには師団規模の外征部隊を派遣できないことは、我々素人にもすぐ判る。北オセチアを拠点としての部隊展開だろうから、その隣国のチェチェン情勢が有る程度安定化していることが条件であろう。叔父によると、確かにかなり安定化しているとのこと、その一番の要因はかなりの金をつぎ込み経済的にロシアとの結びつきが強固になってきていることだと言う。破壊の後の建設の時期が来たと言うことか。ロシア人から言わせると、「チェチェニアのテロリスト」は居るのだが、地元での活動からロシアでの都市型テロリストになっているとのこと。

今度のグルジア紛争の直接的な意味を聞いてみた。

いくつかある中でも要約してみれば、地政学ゲオポリティカ ( Геопоитика ) の問題であるという、極めて軍人らしい答えであった。以前にチェチェン紛争の時も、チェチェンのその地政学的意味合い啓示してもらったのだが、なるほど地図を眺めてみると東はカスピ海、西は黒海に挟まれたいわば、隘路をコーカサス山脈が横断している。ロシアはこの天然の城壁に守護されているわけだが、コーカサスに抜ける出口が北オセチアで、南オセチアはロシアのコーカサスへの謂わば橋頭堡で有ることは歴然だ。あるいは反対に言い換えても良いのだが、コーカサスからロシアに侵入する唯一の入り口なのである。その意味からロシアは、グルジアが連邦から分離、独立後もこの南オセチアに対してロシア国籍を与えてきたことの政策がの意図が見えてくる。

ロシアにしてみれば、城壁(コーカサス山脈)から外側(グルジア、アゼルバイジャ、アルメニア)は手放したが、そこにミサイル網など作られてたまるものか、地政学的にもとうてい許せないと言うことか。大国の論理であろうし、軍人の思考でもあろうしかつまた、塀で囲ってみても更にその外に堀が欲しいという、人間の思考の本質的な部分であろうかとも思い至った。

ロシア軍が作戦を発動するかなり以前から、グルジア軍の動向は把握していたようでその意味では、グルジア軍の南オセチア進入を待ちかまえていたこともまた、事実であることが判った。ロシア軍部隊には国防省正規軍の他、治安維持や保安を任務とする特殊部隊も共同作戦したようだ。日本のメディアでは、「ロシア軍が略奪を働いていると報道している。」と話したら、驚いていた。「外征部隊と言っても政治的な意図があるのだから、その意味では完全な敵地への侵略ではあるまいし、ロシア軍が略奪行為を働くことは厳しく戒められているし、そのために保安部隊が同行している」、「そんなの判ったら、プーチンに銃殺されるよ(これは半分冗談で)」とのことであった。「ロシア軍の進入下での略奪行為とは、誰が誰に為したことか」、「戦闘に紛れて、グルジア人が同国人に対してしたことか、オセチア人がグルジア人に対してしたことか判別しなければならないだろう。」、「類似の出来事はチェチェンでの戦闘下でもまま有ったことだが、いずれにせ後日の調査で同国人の略奪行為ならロシア軍がやったと証言しても、必ずその同胞に報復される」とのことだった。戦闘下や紛争地域で略奪行為を発見したとしても、放置するとのこと。「戦闘行動ではないので、それに関わることによる銃撃戦への発展の防止は、兵士に身の危険が及ぶのを防ぐと同時に、相手の殺戮を避けることである。」と言うことであった。

そういえば国連高等難民事務官の報告で、「商店街に略奪の跡が有った」と報告されているが、誰が略奪したとは言ってない。24日の新聞ニュースによれば「ロシア軍撤退の後、南オセチア民兵が略奪行為を働いた」とあるが、メディアが変化してきたか。だいたいモスクワで記者会見での記事取りだけでなく、現地軍から取材しているのかね。この辺英国のメディアは、今度のグルジア戦争でも情報量、質ともすごいのだが。日本のメディアに露出した記事を元にブログに書き込む人が多いのだが、それだと偏りすぎるかも知れない。

さらに続きが有るのだが、次回項を改めます。

コーカサス地域図ですが、よくご覧下さい。

http://www.lib.utexas.edu/maps/commonwealth/caucasus_region_1994.jpg

|

« 自由主義経済の崩壊の始まり | トップページ | 危機対応組織 »

政治、経済、社会」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1030487/23251356

この記事へのトラックバック一覧です: グルジアの地政学的意味:

» アメリカアレルギー [罵愚と話そう「日本からの発言」]
「多国籍軍に参加した30カ国が沈黙した。この事実が」について  冷戦が終わって、社会主義は崩壊した。にもかかわらず、その残滓としての日本人のアメリカアレルギーはいっこうに回復しない。もうひとつ、日本人のアレルギーには、核アレルギーがあるのだが、これはむしろアメリカアレルギーの副作用だと思う。  とりわけ重症なのがジャーナリスト、学者、野党政治家で、かれらによるミスリードがクウェートとグルジアの比較検証なんていう、現在の国際社会の動向を検討するうえでの格好の議論のステージが幕をあげるの事...... [続きを読む]

受信: 2008年8月27日 (水) 06時10分

« 自由主義経済の崩壊の始まり | トップページ | 危機対応組織 »