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2008年9月

2008年9月17日 (水)

リーマンブラザーズ破綻の意味

14日午後に破綻が確定したリーマンブラザーズだが、 日本のメディアがこぞって繰り返し取り上げているので皆さんもご覧になったことでしょう。さてこの米国での金融危機ですが、 キャスターや評論家の意見や解説を聞いて本当のところ一体何がどうなっているのか理解できましたでしょうか。

私にはこの日本のメデイァの論調が、良く理解できないのでした。なぜ日本のメデイァは解説者も含め揃いも揃って同じような論調で、 リーマンブラザーズ破綻の核心を説明しようとしないのでしょうか。専門家と言われる人たちが無知とも思えないのですが、 だとすれば本質を糊塗する べく何らかの作用がそこに働いているのかと、勘ぐりたくなるほど奇妙に表面的なことのみの説明に終始している。

英国のメデイアの情報はこの問題に関しても核心的です。全体像と自国の金融機関の置かれている状況が明晰に論じられています。 言いたくないのですが、ここでも日本のメディアのおかしさ、不思議さが歴然と表出してきます。一体その取材能力が低いのか、 はたまた我々を馬鹿にしているのか、それとも本当のことが言えないのか。

そこで今回はリーマンブラザーズ破綻の背景を、誰にでも理解できるように出来るだけ要点をかいつまんでお話ししてみましょう。 話をごく簡単にするために専門用語にも解説のためのリンクは張りませんので、更に興味がある向きはご自分でお調べ下さい。

直接的にはサブプライムローン問題に端を発し、商業不動産関連投資の損失が拡大し行き詰まったわけですが、 今度の問題を一言で表すならば、「レバレッジ(Leverage) を使用した金融商品と、そのシステム」の破綻と言うことです。レバレッジを簡単に説明するならば、ある一定金額を元に多額の取引ができる、信用取引のことです。 デリバティブ(Derivatives) と呼ばれる金融商品も、 この範疇に入ります。このデリバティブは、 1980年代にコンピューターサイエンスの進化と共に歩調を合わせ、バンカーズ・ トラスト等の米国の投資銀行で金融商品として手法が確立されていきました。 1990年代はあらゆる分野でのあらゆる商品へのデリバティブ化の時代でした。

この「レバレッジ(Leverage)」 を使用した金融商品にはいくつかの特徴があります。まず有る意味で取引に実態のない、謂わばバーチャルのマーケットであることです。このことは理論値に基づいて値段を決め、 理論値に基づいて損益の確定をすると言うことです。次にレバレッジを使い、少ない資金で謂わば無制限 (現在では分野ごとに一定の規制があるのだが、常に抜け道がある。)に近い取引が可能であることです。そしてこのバーチャルなマーケットは、クローズドなマーケットで金融機関どうしの相対取引であることです。

デリバティブでの金融商品は2000年代に入り、あらゆる分野あらゆる商品を縦横に束ねてそれを取引する時代になりました。 これに最も積極的に取り組んだのがリーマンブラザーズでした。そこで登場してきたのがCDS(債権倒産保険)と呼ばれる、 これらデリバティブ金融商品を保証する仕組みでした。バーチャルな空間での取引に保証行為を付けて、取引の裏付けを図りました。 CDSはこれもまた公開市場 が存在せず、すべて金融機関どうしの相対取引であり、 しかも多くのCDSは発行後に転売され、 もとの債券債務者とは全く別の投資家が保有していることがほとんどです。こうしたCDS市場は総額60兆ドル(保険金総額は400兆ドル)という巨額な規模で、 円にすると6,180兆円というまさに現実のものではない、バーチャルな世界のことでありましょうか。発行者の多くは、 破綻など夢にも思わずCDSを発行してきたので、 準備金の積み立てがほとんどない(あまりにも巨額すぎて準備金の積み立てようもない?)のが実情です。

リーマンブラザーズが破綻したことで、リーマンブラザーズが発行ないし保証した債券(デリバティブ金融商品、CDSなどが不履行にななるのですが、債券の 多くには破綻時の債務保証(債券保険) としてCDSの契約がついています。 リーマンの破綻によって、 CDS発行者(他の金融機関)は保険金の支払いを 迫られるのですが、 上記のように準備金が無いと言うことで、CDS保険金の支払不能に陥り、 連鎖倒産の危険があるということです。

今年3月、投資銀行のベアースターンズがJPモルガンチェースによって救済買収された際に、 米当局はJPモルガンに300億ドルの救済融資をしたのですが、このとき米政府が救済融資した理由は、 ベアスタは巨額のCDSを抱え、そのまま倒産すると62兆ドルのCDS市場がシステム的に全崩壊しかねないと言うことでした。しかし実はリーマンブラザーズは、 ベアースターンズよりも巨額のCDSを抱えていました。 リーマンブラザーズ自身がこれまで発行してきたCDSも巨額で (発行総額は非公開)その額は3兆ドル(300兆円)を超えるようです。これらも債務不履行となり、 リーマン発行のCDSがかけてあった債券(デリバティブ金融商品) の価値が急落することは自明の理でしょうか。リーマンブラザーズ以上にこのCDSを抱え込んでいるのが、世界最大の保険会社AIGです。 AIGのみならず、こうしたCDSの支払不能の可能性を問題にされている金融機関は多いのですがもはや、 現実の世界で処理することは手に負えない規模の金額であることは間違いない。

14日午後、CDSを管轄する国際スワップ・デリバティブ協会(ISDA)が、ニューヨークに店を出す全ての金融機関を集め、 リーマン関係のCDSやその他のデリバティブを所有する金融機関どうしが、リーマンを介さずCDSを相殺決済する予防的なシステムを作ろうとしました。しかし各金融機関は、 先行きが不透明な中で保有するCDSの内容を機密解除することに消極的で、 相殺決済は一つも成立しませんでした。考えてみれば至極当然、現実を超えた金額の取引の実態を明らかに出来るはずがありません。 そのとたんに多かれ少なかれ、それら金融機関はみな破綻の憂き目にあうことでしょう。

サブプライムローン問題では傷を負わなかったとされる日本のメガバンクですが、 GSE(政府系住宅金融機関) のフレディマックとファニーメイの債権問題では巨額な損失を抱え、息も絶え絶えな状態です。昨日16日の報道番組では、 元日銀出のゲストコメンテーターが唯一踏み込んだ発言をしていました。趣旨は、「サブプライムローン問題以来の米国での金融機関の貸出金額が5.2%の伸び率であるが、 日本のそれはマイナス2.7%である。これは貸し渋りではなく、貸し止まりである。米国での金融危機ではなく、今そこにある(日本の金融) 危機なのだ。」と言うことでした。日本の金融機関がなぜそう言う状況下にあるのか、 言いたくてたまらない風情でしたがそれまで止まりの発言ではありました。

今朝17日の新聞では日本の金融機関のリーマンブラザーズ向け投融資債権の損失は2,300億円であると発表されていましたが、 これが今ひとつわからない。リーマンブラザーズ日本法人向けの債権なのか、本体向けはどうなのか。また投融資の中身は何であるか。 深傷に追い打ちを掛けられる状況下でこんなこと怖くて誰も聞けない、言えないと言うことでしょうか。 いずれにせよ米国の金融システムと抱き合い心中するしかない日本でありましょうか。

しかしこの問題は額が現実的ではなく、到底処理できると思われません。唯一あるとすれば最後にはバーチャルな世界のことであるから、 一切の取引は無かったことにしてしまうと言う荒療治だが。しかしまんざら繰り言ではないのかも知れない。米国だったらやりかねないな、 「米国の借金を棒引きにしろ、それが唯一世界を救う道だ。」なんて。

 

 

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